72弦ハープ

ダイアトニックオートハープの音のよさはうらやましかったが、いくつものキーにあわせた何台ものハープを購入する資金は無い。そして、自分はイストゥルメンタルのために多くのコードが引けるクロマチックオートハープのよさも捨てられなかった。
そうして、いつのころから、両方の良い点を兼ね備えているオートハープの実現を考えるようになった。「なーんだ、簡単じゃん。オートハープの弦を複弦にすればいいんじゃん。」
こうして、あまりにも単純で無謀なオートハープ改造がはじまった。
以下に改造後の音源があります。
 72弦ハープの音 (111KB)
♪mp3を聴く73
 72弦ハープの曲:Silent Night (190KB)
♪mp3を聴く72
 72弦ハープの曲:Wildwood Flower (122KB)
♪mp3を聴く71
写真 説明
001.JPG

ある日、オークションでよさそうなハープが適価ででていました。そのハープは運良く適価のまま落札でき、小坂のもとに届きました。

わくわくする一瞬。届いたハープの梱包を解き、ハープを見てみると思った以上によく一安心。

持ってみると想像以上に重く、たたいた感じもつくりの頑丈さを感じさせます。あー、これがこのハープの運命を決めた一瞬でした。

「よし、これだったら、72弦にしても大丈夫そうだ。」 ということで、めでたく、このハープは72弦化改造対象となったのでした。

002.JPG 改造部品の一部。チューニングピン。ストリングガイドピン用釘、エンドピン用釘。
ストリングガイドピン用釘は銅にしました。これは、他の職人ハープでも使っていて音によさそうなので。
エンドピン用釘はステンレスにしました。弦の張力耐えられるように。
両方の釘の太さは、実物を参考に目分で決めました(自分の場合、こういうように適当に決めることが多い)。
003.JPG この日のために買っておいたチューニングピン。オートハープ専用ではなく、チターぴんとして売っています。
上側はレンチ穴に合わせて四角くなっています。下半分は、よく見るとわかりますが、ねじがきってあり、少しテーパー(角度)になっています。
新しいチューニングピンは、弦を通す穴にバリが出ていることがあるので、かどを削って滑らかにしておきます。
004.JPG エンドピンブロックです。エンドピンをどこにするか決めます。
ちなみに、クロマハープの弦は片方の端がループだけではなくハトメも使ってあります。
この写真を見てわかるように、エンドピンは1本おきにジグザグになっています。これは、弦の張力に耐えるためにこのようにしているのです。もし、これが直線状に並んでいると、ちょうど、楔を打つようになってしまいます(と書いているのは後からわかったことなんですが…)。
006.JPG こちらはチューニングピン側。
うーん、どうやって無理なく穴の配置をしようか???
007.JPG あける穴は下穴も含めて36×(チューニングピン+エンドピン+ガイドピン)=108穴
手持ちの工具はこのハンドドリル。いったいこれで大丈夫なのか???
あ、ピンバイスもありました。
008.JPG なぜに「チタンコーティングドリルセット」??? まあ、硬いからいいでしょう!?
011.JPG エンドピン、ガイドピンは釘を釘きりで切って作ります。 全部で72本。
010.JPG エンドピン用の釘はステンレス。ステンレスは硬い。釘きりで切ろうとすると一息では絶対無理。
ということで、少しづつ、まわしながら切っていきます。
012.JPG こっちはストリングガイドピン。銅製なのでエンドピンに比べると楽勝!!!
009.JPG といいながら、作業完了時には結局のように手にまめができてしまいました。
013.JPG エンドピンは抜けることは考えなくて良いので、下穴は釘と同じ位の径でOKです。
下穴をあけたら、きってあったエンドピン釘を打っていきます。ここで注意したのは、あまり強く打たないこと。
エンドピンを直線状に配置したので、強く打つと、何本も打つと楔のような効果になりエンドピンブロックが割れてしまう可能性があるからです。
014.JPG

といいながら、結局、採取的にエンドピンブロックにわれが入ってしまいました。

もう少し、慎重に検討すればよかった。

結局、このまま弦を張ったら、エンドピンブロックの割れがおおきくなり、エンドピンブロックをもっと下のほうに打ち直すことになりました(元の穴には爪楊枝に接着剤をぬって差込み、割れた部分にも接着剤を塗りこみました)。

しかし、配置を直線状にしたため、また、エンドピンブロックに割れが入りました。しかし、エンドピンブロックはサイドブロックとほぞ組してあるため、割れは大きくならないだろうと予想して、打ち直しはしてありません。

教訓:エンドピンは直線状ではなく、スペースが許せばオリジナルのようにジグザグに配置し、できるだけエンドピンブロックの下のほうにするのが良いでしょう。

015.JPG さて、こんどはストリングガイドピンです。
ストリングガイドピンも釘の径とほぼ同じ径の下穴を開けます。下穴あけは精度が必要なのでピンバイスで行いました。
その後、下穴をあけて、弦の横張力に負けない程度に打ち込みます。
016.JPG 全部の下穴が開け終わったら、ガイドピンを打っていきます。
017.JPG ガイドピンは短いので、ラジオペンチで持って打ちます。
018.JPG 全部のガイドピンを打ち終わりました。
しかし、これは、ピンの頭が釘きりで切りっぱなしの鋭いままです。
019.JPG 72弦化の下半分を完了したとことろの全景です。エンドピンカバーは作業のために取ってあります。
020.JPG エンドピンブロックの部分です。
エンドピンがきれいに一列に…これじゃぁあだめだったんですね、ハイ。直線状に並べると、楔効果でエンドピンが割れちゃうのです。
021.JPG 上に書いたように、ピンの頭が釘きりで切りっぱなしの鋭いままですと演奏時に怪我をしてしまいまので、革加工で使う丸ポンチ(頭が球凹で都合が良い)で滑らかにします。
写真ではわかりずらいかもしれませんが、ピンの頭の鋭さがなくなっています。
024.JPG 今度はチューニングピンの追加です。
025.JPG 下穴あけの位置を記すためガムテープを貼り、さすがに目分量ではまずそうなので糸で弦張り後の状態を模しながら穴あけ位置を決めていきました。
斜め部分は直線上に穴あけ位置が並んでいます。
026.JPG チューニングピンブロック部分=横並び部分では、ジグザグに穴あけ位置が並んでいます。
027.JPG 下穴は2段階で行うことにしました。これは、チューニングピンが斜めにする必要があるためです。
まずはピンバイスにて小径2mmΦを他のチューニングピンと同じ角度になるようあけていきます。
028.JPG 下穴開け1段階の中くらいです。
029.JPG 下穴開け1段階の完了。
030.JPG チューニングピンは5mmΦです。下穴第2段階はチューニングピンにあわせて4.5mmΦをあけるため、ドリルの刃に深さの目安をガムテープでつけます。
この段階では、写真にはなかったですが今回のために購入した電動ドライバドリルを用いました。
031.JPG 調子よく穴あけをしていたらなんとドリルの刃がおれてしまいましたぁぁぁ…かなしいぃ…
032.JPG

そこで登場したのが、「チタンコーティング」です。備えあれば憂いなし。

★ここからはそのまま作業を進めて弦張りです。弦張りの記録は無いので、次はチューニングピンの修正です。
033.JPG チューニングピンの穴あけでいくつかの不良(傾きが良くない)が出てしまいました。
中でも一番のミスがこれ。完璧に傾きがおかしいです。これでは隣のピンとぶつかってチューニングができません。
034.JPG

ピンを抜いて穴を見てみると、下穴の位置も悪いです。
ということで、ちょっと大掛かりな修正が必要となりました。

★この修正は「ピン緩みの修理」と基本的に同じです。
035.JPG チューニングピン穴の修正は、下穴より太い径の穴を開け、そこに丸棒をつめ、正しく下穴を開けなおすことにより行います。
今回はチークの10mmΦの丸棒を用いることにしました。写真ではこの丸棒のための穴を開けています。穴の径はたしか8mmΦ。
044.JPG このために、木工用のドリル歯を購入しました。
036.JPG

丸棒をさしたところ。今後、この出っ張りを切って、チューニングピンの下穴の開け直しをしました。

★これで弦張りまで完了。しかし、穴あけ修正した部分のチューニング緩みが発生しました。

最初の修正で使ったチーク(10mmΦ丸棒)は油性の材料なので堅いがすべるということがわかりました。
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 チーク 【柚木・油木】 teak
 加工性、耐久性がよく、油分を多く含んでいるため金属類等と加工
 しても、防錆効果があります。
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そこで手持ちのラミン(8mmΦ)使うことにしました。
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 ラミン Ramin
 原木から採れた加工品を並べてみても色ムラがなく違和感がありま
 せん。材質はやや重硬で均質。乾燥、加工は容易で表面の仕上がり
 も良好です。
 乾燥時、釘打ちの時に割れやすいので注意。耐久性は悪く、カビ等
 (青変菌)の害を受けます。
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★これに関しては、後の方に続きます。
037.JPG さて、今度は15コード→21コード改造です。21コード化は例の粗悪21コード変換キットを使用します。
まずは、もともと付いていたコードバーをそっくり取り外します。
038.JPG コードバーコーム取り付け位置きめをしています。
あとで判明しますが、このようにきちんと位置きめをしてもこのキットでは修正加工が必要になるのです。だから、粗悪キットなのです。
039.JPG

よく注意してみるとわかるのですが、コードバーのガイド切り欠きが長いことがわかるでしょうか???

コードバーカバーにL字アングルを取り付けてコードバーコーム位置を決めたのにもかかわらず、コードバーのガイド穴はコームの歯にあわず、コームにあわせて全コードバーを修正加工しました。

040.JPG

いく種類かの修正加工をしてやっと21コード化し、チューニングです。

とりあえず改造はひととおり完了したのですが、チューニングピンの緩みを直す必要がありましたね。

041.JPG まずは問題箇所のチューニングピンを抜いてしまいます。
042.JPG 抜いた跡です。すでに一度修正されていることがわかります。
043.JPG まずは穴あけ。
045.JPG とりあえず修正丸棒用の下穴7mmΦは良い具合に開けることができました。
046.JPG これにラミンを入れて接着し…
047.JPG 出っ張りを削って…
048.JPG 新たに購入したリューター用のやすりでさらに出っ張りを削って平らにします。
049.JPG もっと平らに…
050.JPG 拡大するとかんな感じです。
051.JPG 出っ張りはほとんどなくなりました。
052.JPG マジックインキで塗装(ごまかしともいう)をして…
053.JPG 修正用下穴の下穴をあけて…
054.JPG 二段階目の下穴あけ。穴あけは、深さの3/1が3mmΦ、1/3が3.5mmΦ、残りが4mmΦにしました。これはチューニングピンがテーパ状になっている ためです。
063.JPG 修正完了。
057.JPG 余談ですが、これが粗悪21コード変換キットのすりあわせ苦労の跡です。参考まで。
058.JPG コードバーからフェルトをカッターではがし、オリジナルのフェルトを再使用するために長さ別に並べました。
059.JPG コードバーのコードに対応した弦の位置をマジックで実物合わせしながら目印します。
060.JPG 弦の位置を目印に、ミュート用フェルトの長さがわかるようにします。
061.JPG

狭い弦間にちょうど合う再使用フェルトを貼り付け、1本完了。
これを21回行い、コードバーとバーカバーとのあたりなどの調整を行って、21コード化完了です。

★この再使用は結果的に失敗で、このあとリフェルトをすることになります。

 ・フェルトのはぎ取りが雑だったため、フェルト高さが微妙に異なる。
 ・このため、ミュートできない弦が出てきた。
 ・さらに弦のテンションにより全体がゆがみ、全体的にミュートが甘くなった。

★ということで、最終的に家具用のやわらかめのフェルトにリフェルトし何とか弾けるようになりました。

72弦化改造(+21コード化)結果。

・ボディ変形発生
 

これはある程度予想していましたが、やっぱりかぁ、という感じです。しかし今のままで変形が止まるかは不明。

・中低音不足
 

高音側は複弦の効果がでて独特の味のある音が得られた。しかし、特に低音がならなくなったよう。これは、張力によって低音を響かせられる余裕がなくなったためではないかと想像。

・ピッキング感の変化
 

当然ですが、弾いた時の右手の感触がまるで変わりました。ちょうど、12弦ギターを弾いた時の左手のよう。


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